小さな世界 第13話


「本当に行くの?」

目の前にいるルルーシュは、出会った頃のように黒いスーツを身に纏っていた。
既製品であるというのに、彼が着るとそうは見えなくなるから不思議だ。

「ああ、ここまでやられたんだ。きっちり倍返ししなければ腹の虫がおさまらない。なにより、今度はナナリーに手を出すかもしれないからな」

ナナリー。それはルルーシュの最愛の妹の名前だった。
彼女を守るため戦うというルルーシュを止めることは僕には出来なかった。

「幸い、C.C.が俺のパスポートやカード類を持ってきたから、出国に関して問題は無い」
「・・・でも、向こうも君を狙っているんだよ」
「そうだな」

カフスをはめながら、ルルーシュは苦笑した。

「どのみち元に戻った以上隠れ暮らすのは難しいからな」

どうやって彼女がルルーシュを見つけたのか最初は解らなかったが、聞いて、ああ、なるほどと僕は納得した。スザクが忘れて行った携帯で、ルルーシュは彼女に電話をかけていたのだ。そして自分の知る限りの位置情報を教え、ここに招き入れた。魔女である彼女には、この家程度のカギは簡単に開けられるのだという。

「なら、また小さくなったら?僕がずっと傍にいるから」

必死に言い募るが、彼はくすりと笑うだけだった。
解っている、無理な話だとうことは。
ナナリーを守るためにも、僕の部屋にあるあの小さな世界で彼は生きていくことなど出来はしないのだ。

「有難うスザク。お前には助けられてばかりだ。全てが終わったら、必ずこの礼はする」

そう言って、彼はその紫玉の瞳を柔らかく細め、綺麗に笑った。
ああ、駄目だ。やっぱり諦めることは出来ない。
此処で別れたら最後、もう二度と会うことは出来ないだろう。
彼が此処に残れないのであれば、道は一つだけ。
スザクは意を決して口を開いた。

「ルルーシュ、僕も」

一緒に行く。
そう告げようとした時、外にいたC.C.がガチャリと大きな音を建てて扉を開けた。
その音にルルーシュは意識を向けてしまい、スザクはタイミングを完全に逃した。
何故かガックリと肩を落とした様子のスザクに、C.C.は首を傾げルルーシュを見るが、ルルーシュもまた首を傾げるだけだった。

「まあいい、下にタクシーが来たぞ?まだ用意は出来てないのか?」
「いや、終わった」

そう言ってルルーシュが鞄を手に取る。

「いや、お前が終わったことぐらい見て解る。私はそっちのスザクに言ったんだ。お前その格好で行くのか?というか荷物は無いのか?」

「え?」

スザクは驚き顔を上げた。

「は?」

何の話だとルルーシュは眉を寄せる。

「ん?」

スザクとルルーシュの反応に、C.C.もまた眉を寄せた。

「私はてスザクも来るものと思って、飛行機も3人分手配したんだが、勘違いか?」

僕も行きたい、一緒に行くという意思をすごく感じていたんだが。

「どうしてスザクが行くんだ」

と、ルルーシュが呆れた口調で否定を始めたので。

「行く!行くから!絶対行く!!待って、5分で荷物詰めるから!!」

そう言うが早いか、クローゼットからキャリーバッグを引っ張り出し、タンスを開け、衣類を詰め込みはじめた。ああ、パスポート類も入れなければ。

「は?待てスザク!これから戻る場所は危険なんだぞ!」

暗殺だって起きる場所だ。旅行や観光気分で行く場所じゃない。

「大丈夫、君は僕が守るよ」

ニッコリといい笑顔でスザクはそうルルーシュに告げると、ばたばたと部屋を走り回り、必要そうなものを放り込む。

「いや、だから、俺じゃなくお前が危ないんだ!」
「ルルーシュ煩いぞ。ほら、スザク。行くなら早くしろ。時間が惜しいんだ」

既に向こうのルルーシュの部下と、友好的な兄妹に連絡をつけ、シャルルに真相をばらしているとはいえ、V.V.がどう動くか解らない。だからさっさと飛行機に乗って、ブリタニアに着きたい。
空の上で襲われれば、流石にC.C.でも厳しいのだ。

「C.C.!」
「スザクは運動神経がよさそうだから、減った護衛の穴埋めにも丁度いいだろう。こいつの性格ならオレンジもきっと気に入るさ。それにRPGで勇者は魔法使いと戦士を連れていくものだろう?」

ドラ○エなら、そこに僧侶も付けるな。

「RPGと一緒にするな!」

そして俺は連れて行くなら武道家だ!コストも安いしな!

「まあまあ、いいじゃないルルーシュ。僕は小さい頃から武術をやっているから、ちゃんと君を守れるだけの技術は身につけているよ」

武器もいらないから、君好みの武道家ってことだよね!

「ってスザク!」

簡単に着替えをし、バッグ持ったスザクが、早く行こうとルルーシュの背を押した。

「よし、用意できたようだな。ならさっさと行くぞ。ロロのケースを忘れるなよ」
「ロロなら僕が持つよ。ほら、ルルーシュ行くよ」
「ああ、もう、知らないからな!!」

その数日後、皇妃マリアンヌ暗殺の首謀者が捉えられ、処刑された。
そして、死んだとされた皇子が魔女と共にブリタニア宮殿へ舞い戻った。
彼の騎士となる少年を連れて。
低い継承権を持ちながら、高い能力を有する皇子の帰還に、皇位継承権争いが勃発するのではと囁かれたが、犯人の処刑以降は穏やかなものだった。
戻ってきた皇子は宰相補佐兼皇帝補佐としての役目も与えられているという。

そんな穏やかな宮殿内で、皇子の連れてきた少年が新たな火種となっていた。

「俺は騎士など必要無い!スザク、お前は日本に戻るんだ。首相の嫡子がいつまでも他国にいてどうする。むしろ大学はどうした!」

お前、もう1ヶ月学校休んでいるぞ!!

「え?大学ならあの後すぐやめたし、親父にはもう戻らないって連絡したよ?」

そしたらあっさり勘当されちゃった。
だから問題はもう何も無いよ!
君の騎士見習いとして正式に認められたし!!

「問題しかない!おい!C.C.!」
「枢木スザクはV.V.と違って、性別や年齢など気にするタイプではなさそうだな。だが先に言っておく、この男は私の物だ。騎士になるのはいいが、こいつをやるわけでは無いからな」

いい護衛になるとは思ったが、ここまでこいつに囚われているとは思わなかったぞ!
失敗した!!こいつの感情、親愛じゃなく恋愛のほうだったか!

「何言ってるんだよ、騎士と主の関係は、結婚とほぼ変わらないよ。誓いだって似たようなものじゃない」

だから僕の物ってことだよね?
え?ルルーシュは皇子だからいずれ結婚する?させるわけないじゃないか。

「お前の頭は年中花畑か?騎士の誓と結婚の誓いは全然違うだろう。それにルルーシュはV.V.を処刑するために不死の呪いを受けたからな。私以外とは既に時の流れが違う。諦めろ。それにもう将来の誓は私と立てている!」

というか、お前そんなキャラだったか?開き直り過ぎじゃないか!?

「ちょっと待てお前たち、冗談でも言っていいことと悪いことが・・・」

ルルーシュは話しについていけず、思わず米噛みに手をおいた。だが、ルルーシュの言葉は綺麗さっぱり無視されて、スザクとC.C.は尚も話を進める。

「え!?駄目じゃないかルルーシュ!変なもの貰ったら。もー、その呪い誰かに移しちゃおうね。第二皇子辺りなら喜んでもらってくれるんじゃないかな」

毎日何回も告白してるのに、スルーされまくったら僕でも開き直るよ。
ほらみてよ、これだけあからさまに話しててもルルーシュ理解ってないし!何の話だって顔してるし!!

「あの皇子はルルーシュに対してだけブラコンだからな。不老不死になったら最後、代価としてルルーシュを死にまで傍に置くことは間違いないぞ」

そして気がついたらルルーシュ分の不老不死を見つけてくる。間違いない。
その危険性もルルーシュは気づいてないから困る。

「じゃあ第一皇女」

永遠の若さがほしい!最近皺が!って言ってた。

「欲しいのは若さだろう?もう大分年をとってるから、色々面倒になるぞ」

皺を消したくても不老不死になったら消せないしな。

「え?じゃあ皇帝」
「あの皇帝に永遠に支配されるのかこの国は」

それは嫌じゃないか?

「はぁ、仕方ないなぁ。じゃあ僕もその呪い、もらうしかないか。だって主と騎士は一心同体。君が不死なら僕も不死にならなきゃね。何処かに魔女か魔法使い居ないか調べなきゃ」

そういうと、スザクはちょっと行ってくるねと駆け出した。

「あ、こら待てスザク!お前に不老不死など百年早い!!」

C.C.はさせるか!と言わんばかりにスザクを追いかけた。

「いいから少しは話しを聞け!この馬鹿共!」

あと、俺にももう少し理解できるように話せ!!
その怒鳴り声も聞こえないのか、二人はこの場からあっという間に消えてしまい、皇子はリスと共に残された。

「なあ、ロロ。あいつらをどうにかしてくれないか」

本気で最近あの二人の話しについていけないんだ。
リスは皇子の肩の上に登り、任せて!と言うように可愛い声で鳴いた。
その鳴き声に、皇子は自然と顔を綻ばせた。

「まあいい、この不老不死の呪いが欲しいという奇特な人物が今日此処に来ることになっている。ロロ、お前も一緒においで」

自分の体が病魔に侵されている事を知る若い武官が、愛する天子を守るためこの力がほしいそうだ。
あの小さな世界で共に暮らしていたリスにそう教えると「へー、あの二人はこの話知らないんだ」と、楽しげに鳴いた。

12話